泣いても何も変わらない
2週間前に奥さんの母親が亡くなった。
奥さんは幼少期、8歳になるまで母親の放浪に付き合わされ、二人きりの生活の中で悲惨な経験を強いられていた。
日常的に一人で放って置かれ、話し相手もなく、夜も昼も毎日泣いていたと・・・。
8歳になって、母親と共に祖父母の元に戻り、そこで暮らしていた兄二人と始めて対面する。
この時まで、互いに兄妹の存在を知らなかった。
一緒に暮らし始めた兄たちは、奥さんが幼少期、母親とは楽な生活をしていたのだと勘違いして、ずいぶん虐められたとも聞いていた。
通夜の席で、奥さんの幼少期の話を聞いて、自分たちの勘違いを知り、その悲惨さに驚き、涙を流していた。
母親に対する奥さんの恨みは深い。
通夜から葬儀に至るまで、奥さんに涙はなかった。
そういえば、奥さんと知り合い、結婚してから、涙を見たことがない。
奥さんが言う・・・幼少期、毎日泣いていて気づいた。
「泣いても何も変わらない。」だから、私は泣かないのだと・・・・・。
幼少期の、間に合わせの、飢えずに済む程度の食生活の中で健康に成長することが出来なかったようで、それが原因と思われる持病がある。
奥さんは、死ねば楽になれるという考えに囚われている。
痛いのは嫌だが、死ぬことを恐れたことはないという。
本心から、死ぬことに何の恐れもないと言う人を、奥さん以外に自分は知らない。
時々、そんな話になる。
自分が「可哀想だから、今にうんと稼いで、誰も出来ないような贅沢な暮らしをさせてあげる」と言えば、奥さんが「じじいだし、もう遅いし。」と言って、笑う。
ずっとそうだが、毎日笑わせて、過ごさせてあげるしかできることはない。
by ksway | 2023-05-28 11:13 | 親のこと